平成18年9月20日
秋の彼岸法要・清興の会
ご先祖さまに感謝した後は、初めての「世界」に、びっくり
 
「中庭を見ていたら秋が見つかった」というとキザに聞こえるが、日差し、渡る風が夏の日とはっきりと違ってきている。堂内も急いで扇風機を回す人はいない。遠くの羽が空気の流れを作ってくれるだけでよい。
 ご詠歌が始まる。先に墓地に詣でた人たちがお位牌堂に廻り、急ごしらえの舞台を横目に眺めつつ席を選んでいく。
「お元気でしたか?今年は暑かったですねぇ」「おかげさまで・・・」知った顔に出会うと言葉が生れる。チラッと会釈したり、笑顔を送ったり。徐々に席が埋まり、やがて打ち出しの鐘がひびく。

 既に近在の和尚様方がご本尊の両脇に控える中、送迎、侍者を随え導師が入堂される。黄恩衣(こうおんえ=権大教師に許される・定員制)を召された文元大和尚がひときわ鮮やかに写る。法事の席では珍しい「きれい!」の声がつぶやかれる。薄山吹と言おうか、光の具合ではカナリヤ色にも見える。わが曹洞宗では衣と袈裟は法階や僧階によって異なるが、大和尚以上の袈裟色は変わらず衣の色が変わる。緋・黄・赤紫・紫紺色と上がっていき資格衣と呼ばれている。ちなみに、両本山の貫首・前貫首は別格で、紫衣である。
 さて法要は厳粛のうちに、ご本尊、釈迦牟尼仏、両祖大師(道元禅師、瑩山禅師)ご開山さま(傑堂義俊禅師)歴代ご住職、檀信徒諸霊に三拝。献湯菓茶の後、般若心経を唱える。ご詠歌をはさみ、「彼岸法要」に移り、修証義を唱える。堂宇に響く読経の中、廻し香炉が参列者ひとり一人をわたり静かに焼香をした。ご先祖の安らかなご冥福を願い、生きている自らの幸せを感謝しつつ、彼岸法要は厳粛のうちに終了した。
 続いての清興の会は、国内はもとより海外でも活躍されている千賀ゆう子さんの「ひとり語り」である。
坂口安吾の「桜の森の満開の下」を岸田理生が脚色、千賀ゆう子の代表作のひとつとして初演以来各地で反響を呼んできた。
方丈のあいさつと紹介が済むや遠くより歌声が堂内に流れてきた。♪霜月~と季節を織り込んだ歌詞のようだ。師走♪と締めて、千賀さんが詠いつつ舞台に上がる。掌には数珠。位置を定め題目を披露。室町の頃・・・、と話に入る。
 幽玄の世界の登場人物を声色を変えながら語り進めていく。優美な姫、老婆、女房、侍・・・と口調も変わるし情景が想像しやすい。話の半ばから更に盛り上がり、聴く人も魅入られていく。一人として席を立つ人はいない。かたずを呑んで凝視する人。目を閉じ耳に集中させる・・・おそらく自分で想像し場面を描いているであろう、人。語りの世界に全員が惹き込まれて行く。ほとんどの人にとって初めての経験であろう「ひとりがたり」の世界へ。
「初めて聴いたけど、すごい迫力ねぇ」「桜の木の場面が浮かんできたわ!」
「あの野太い声がよく出るわねぇ。さすがねぇ」「原作を読んでくればよかった」
「衣装を着ければもっとイイのに・・ね」
終って、耳にした感想の言葉だった。 
それぞれに聴き感じた「桜の森の・・」であるが、中にあらためてご本尊様に掌を合わせて一礼、姿勢よく家路に向かう人もいた。後ろ姿からは「満足」や「納得」を得られたかのように、見えた。