平成19年3月18日(日)
春の彼岸法要
戻り寒波を押しやって、迎えたお彼岸。
 
暖冬、暖冬と騒がれ桜の開花も大きく前倒しされた矢先、寒気団にすっぽり覆われた日本列島は震え上がってしまった。気象台の手違いですと開花日が訂正されたのはいいが、静岡より東京の方が一足先の開花は近年珍しい。それでも寒気が和らぎ昨年同様、休日の「彼岸の入り」は子供連れの檀信徒さんが目立つ。墓地のあちこちに呼ぶ声や嬌声が飛びかっている。ご先祖様もさぞお喜びであろう。
 本堂に鉦が響き ♪草のいおりに♪とご詠歌が始まるころには位牌堂から人も戻り、ストーブの周りから徐々に座り始めた。耳はご詠歌に、目は衣桁に掛けられた長い和紙の書き物を眺めておられる。

和尚様方が控える中、方丈さまが入堂される。香を炊き三拝、檀信徒も続く。お密湯などをささげる「献湯菓茶」を終え三拝する。気持ちが洗われご先祖様とお話が出来そうな思いに駆られる。やがて、堂宇いっぱいに般若心経を唱え回向文を読誦、再び一同三拝にておつとめが終わる。
 続いて彼岸法要に移り、檀信徒も併せて修証義を唱え、ご先祖の安らかならんことを心から念じた。お経の流れる中、回し香炉が全員をめぐり、ふたたびご詠歌が流れ方丈様が退堂、和尚様方も静かに倣った。
春のお彼岸では初めての試み「詩語り」。

5メートル余りの和紙に詩が書かれ衣桁に張られている。その前に座り、静かに澄んだ声で話し始める。語り部は里みちこさんと言われ詩人であり、「詩語(しがた)りびと」として全国各地にて講演・展覧会を開催し、詩語り・トークで言葉遊びの中に人の命の大切さを訴え、人々に元気を植えつけている。体から言葉が詩になって踊り出すようだ。45歳で大学に入学。在学中から毎朝大阪城公園にて「詩語り」を続け、12年になろうとする活動派。一方、朝日新聞に『感字在菩薩』や『字遊自在』などを連載したり、「もったいない精神」旺盛で、ものをよみがえらせる名人。事実、着衣や作品の素材も暮らしの中の廃棄物を生かし、工夫を凝らし着用されている。先日まで東京渋谷・国連大学、月末からは島根県で展覧会と多忙の身だ。

お話のテーマは、聞く方から希望を取った。多数決で「亡き父への手紙」と決めるユニークさ。ご自身の体験を詩でつづり、会場の皆さんに語りかける。真情あふれる言葉遣いとリズミカルな表現は聞く人の心に強く響き、深くうなずく人、目を潤ます人、それぞれに引き込まれていった。モノを捕らえる優しさ感覚がきれいな声によって語られていく。
「片方の耳がご不自由と後で伺い、お話にいっそうの感動を覚えました」と後日お手紙を下さった方もいたが、聴かれた方のほとんどは「もっと聴きたい」「次はいつ?」との感想を寄せられた。
 多くの方に感動をあたえた里さんのお話は、日を追って大きな波紋となった。再度聴きたい、機会を作ってくださいとの要望は、しかとお寺や方丈さまの耳に達し、検討に入ったことをお知らせしておきたい。