平成19年9月20日
秋の彼岸法要・清興の会
暑さが残る中、手を合わせご先祖に感謝。
 
 今年の夏は近年にない…と、うなづき合う尋常でない猛暑が続く。いつもの「暑さ寒さも彼岸まで…」、の挨拶が出来ない。短い秋に成ってしまうのだろうか。しかしすこぶる風の通りが好い本堂では、座っている分汗もかかない。
 彼岸の入りの20日。1時20分にご詠歌が始まる。先に墓地に詣でた人、お位牌堂に手を合わせた人たちが席につく。
「お経を頂かないと来た甲斐がありませんもん」「お墓がきれいになりました。気持ち良いですね」話しながら席に着く人もいる。

 定刻、鐘の音を合図に緋の衣に身を包んだご住職が入堂。読経の前に粛々と、ご本尊、釈迦牟尼仏、両祖大師(道元禅師、瑩山禅師)ご開山さま(傑堂義俊禅師)歴代ご住職、檀信徒などの諸霊に三拝、献湯菓茶(お密湯と菓子、茶をご本尊に捧げる)の後、般若心経を唱える。  
 ♪草の庵に寝てもさめても、のご詠歌をはさみ、「彼岸法要に移ります」のご案内があり修証義を唱える。持参した経本を広げページを探し字を追う人、瞑目し全身でお経を聴く人。やがて、一人ひとりに香炉が廻され、それぞれ手を合わせ焼香をした。
 
 ご先祖の安らかなご冥福を願い、生きている自らの幸せを感謝する彼岸法要はいつものとおり厳粛のうちに終了した。

「建礼門院」を聴き 幽玄の世界にあそぶ

 続いての清興の会は好評の昨年に引き続き千賀ゆう子さんによる「ひとり語り」で、演目は『建礼門院』である。
平家ゆかりの京都・長楽寺の依頼で建礼門院命日5月1日に10年間に亘り上演したことは多くの反響を呼んだ。その後東京、仙台など各地で上演、繊細な声の抑揚を効かせた静かな語りは、人々を幽玄の世界にいざなう、と評されている。多忙な日々の中での天林寺公演は、住職ご夫妻との友情による特別出演である。

 本堂奧庭より笛の音が流れてくる。歌比丘尼に扮した千賀さんが歌いながら登場、と言っても庭の奧、蔵の陰からである。♪仏も昔は人なりき、われ等もついに仏なり♪そこで笛の音が変わり比丘尼が白日夢を語りだす。
「清盛さまが…、安徳帝が…、重盛さまが…」と平家一門の最後の姿をつぎつぎと語る。やがて庭から本堂の舞台に上がり、「流浪の旅を続ける歌比丘尼、勝手は平家にお仕えしたこともある身で…」と自己紹介し物語りに入る。
 あるときには声高く、そして低く。悲しげにつぶやき、怒りをこめて叫ぶ…と語り続ける。固唾を呑んで、身じろぎもせず、とはこのことを指すのだろう。瞬きも惜しむように一声一挙手を追う。暑さも忘れ本堂の中は一つに固まってしまった。語り手聴き手が一体になったのだ。
 平家の哀れさを感じつつ、心のそこまで不思議な幽玄の世界に引き入られて仕舞ったのだろうか。