令和7年2月11日(日)
萱垣稲荷荼枳尼真天 ご祈祷会
初午大祭開催される
宗徧流お茶会・稲荷楽市もにぎわう
 出展者やお寺の関係者をはじめ、檀家さんまでが気をもむ天気の具合はいかがであろうか?
近年まれにみる寒波の襲来で、日本海側各地では積雪被害が報じられる中、当県の山間地にも降雪があり、浜松市内でも珍しく早朝の残雪が見られ「寒さの厳しさ」が身に染みる。
 1月後半の長期予報によれば、11日には強い寒気団も移動、春への兆しが…とあり、直近の予報では、平年並み気温は4~5日で納まり、次週よりはさらに強烈な寒気が…と告げている。どうやら「初午大祭」は強烈な寒波の谷間にあたるようだ。祈る思いで当日を迎えたが、2日程長く居座った?寒気に包まれ、「春」の兆候など微塵も見えない。昨年同様、天林寺山には冷たい風が吹き、楽市は冷たい朝の幕開けとなった。
 
 冷たい朝とはいえ、8時過ぎから慣れた手つきでの開店準備が始まった。店主の手際よい動きは無駄もなく頼もしいが「冷えるね」「風がつめたいねぇ、それでも晴れて…良かった」と会話は短めで、笑顔も少なく、掛け合いも弾まない。そんな中にも「初めて、でして…」「幟も見ました…」と緊張の声が混じる。今年は3店が初参加された。
 
 9時30分を待っていたかのように伊藤文元方丈が開会のあいさつ。続いて事務局の長谷川和尚から店への感謝と注意が告げられ、いよいよ開幕。
 まず、新鮮さを競う野菜や花屋さんに人が集まる。すでに下見済みか?それとも、狙いは高騰続きの野菜類か…?それを横目に隣の店主、所狭しと並んだ品を自慢げに、威勢の良い声をあげる。「お値打ち品だよ! いらっしゃい…」

 10時からは福引やお茶会も始まった。暖房の効く屋内はいざ知らず、外では冷えた掌をさすり肩をすぼめての品定め。売り手、買い手も力が入り体も揺れる。移動は背を丸めての小走りだ。陽は照るものの相変わらず風はつよい。大きな道路から吹き上げる風は冷気を含み、人々を屈(こご)ませ気持ちをも萎えさせる。自然と動きは小さく、話も短めになる。さらに、ヒューの風切り音が言葉を飲み込み、会話まで凍らせる。
 11時前に「大道芸」の田中さんが動き出した。常に新しい芸に挑む男の、満を持しての登場だ。今年はどんな技が見られるだろうか?子供たちは喜ぶだろうか?
 あらためて周囲を見渡す。気のせいか子供連れが少ない。塾通いか部屋でのゲームに忙しいか?風に頬を打たれつ、思案する。そう言えば、♪子供は風の子♪のメロディも耳にしなくなって久しいナと思い付く…、時代は変わっていくんだ…と。
 午前の人出は例年並みと思われた。人垣で並ぶ商品が見えない店も少なからずあり、店の呼び声も明るく元気に響いているからだ。

 昼を過ぎても冷たい風はおさまらず、気温も上がらない。例年のように人の波も大きくはならず、盛り上がりに欠け手持ちぶさたの店もある。逆に、お客様には店主とゆっくり話ができ、品の吟味もできる?と思いかけたが、やはり賑わいの中でのやり取りこそ「楽市の目玉」であり「願うところ…醍醐味」であると思い直した。
 一方、例年通りお世話人により「福引会」は本堂、「お茶会」は天真閣にて順調に運び、それぞれに訪れる人々は楽しげで満足感が見て取れた。

 午後3時、本堂前のざわめきをよそ眼に僧侶達が稲荷堂に向かう。中央に方丈が端座、両脇に僧が居並び読経が始まった。般若心経に続き早いテンポで真言が読まれ、転読もされた。直立不動で見守る人、珍し気に堂内をのぞき込む人…例年繰り返えされる光景であるが、力強いテンポに乗っての読経は心に響き入り、荘厳なうちに、商売繁盛、家内安全、学業増進…など祈祷され、心強い。
 そもそも当山のお稲荷さんは隣県飯田市鼎(かなえ)の願王教寺(法苑院萱垣山願王教寺)さまから勧請し、大正10年9月に建立された。
 ご存じの通り当山は寒巌禅師(道元禅師の直弟子)の法脈に連なる。禅師が2度目の渡宋の帰路、海上にて荼枳尼真天の感得*(一説には海難事故を救われた…ともいう)を頂き、生涯その感激を護法の守護神とあがめ、ねんごろに弟子たちにも伝え、今日に至っている。ちなみに同じ寒巖派の豊川稲荷さんも同じご神体であり、屋敷まで提供し信奉した、かの大岡越前も荼枳尼真天稲荷の信者である。
 さて、当山はなぜ萱垣かというと、勧請元の願王教寺さまが「萱垣」の地に開山、山号とされたゆえであり、ご本体は正しく荼枳尼真天さまそのものである。ちなみに普済寺さまは北山稲荷と称されています。
 *感得…奥深い道理を悟ること。