平成22年3月18日(木)
春の彼岸法要
そこまで来ている「春の日」に…

 日々の気温は急上昇、下降を繰り返し油断が出来ない。都度重ね着を繰り返すがお彼岸を迎え、落ち着くだろうかと期待がかかる。ところが・・(・・が)の18日、強くはないが頬を打つ風は冷たく、屋内といえども広い本堂はストーブが欠かせない。
 打ち出しの10分ほど前から鐘にのってご詠歌が奏でられる。三々五々、墓参や位牌堂の焼香を終えた檀家さんが本堂に集まり、座を占める。近年椅子を利用される方々が増えているが、互いに「もう…そっとお近くに…」「せっかくですから…」なんて言いながらストーブの近くから座っていく。
 法要の始まりを継げる打ち出しを期に、堂内の空気が変る。僧侶たちは所定の位置に立ち、参詣の人は居ずまいを正し、導師を迎える準備に入る。やがて鐘の音と共に文元方丈が入堂される。鮮やかな緋の衣が眼に飛び込んでくる、手にされた払子(ほっす)の白が一段と目立つ。すっと須弥壇前に進まれ香を炊き三拝、案内に従い檀信徒も続きその場で三拝。無言の中でお密湯などをささげる「献湯菓茶」が続く。古から伝わる歯切れよい所作は無言で推移、衣擦れの音しか生まれない。厳粛に流れる諸事に列席する檀信徒の気持ちも洗われる。  
 
 やがて、堂宇いっぱいに般若心経を唱え回向文を読誦、再び一同三拝にておつとめが終わる。
 続いて「彼岸法要に移ります」のご案内があり一同三拝。修証義を唱え、ご先祖の安らかならんことを心から念じた。荘厳なお経が流れる中、回し香炉が全員をめぐり、それぞれの想いを込めてご先祖様へ感謝の念を奉じた。
和尚さまの紹介により里みちこさんが紹介され、「詩語り」が開催される。
 本堂東の間に掲げられた布製の壁掛け(タペストリー?)が目を引く。「私は『凧』かと思ったねぇ」と言った人もいた。よくよく見ると大きく「絆」(きずな)の字が縫い込まれている。講師の里さんのお手製である。片や、畳の上には5メートル余りの和紙に書かれた「詩」たちが衣桁に掲げられている。はじめての方には不可解であろうが、やがて、静かだが凛とした里さんの声が堂内を走り始めると、お話に惹き込まれ涙を流し聴き入る人もでる。生きたことばが心に染み入るのだろう。
 里さんは「しがた(しがたと)りびと」として全国各地にて講演・展覧会を開催、人の命の大切さを訴え、人々に元気を植えつけている。毎年春には駆けつけていただき新しい詩語りをされるが、今年のテーマは「学くんへの手紙」。阪神大震災の折、現地へボランティアとして駆けつけた体験を綴った手紙を語られた。お彼岸の入りの日、ご先祖さまとお話する機会に得た、貴重な時間との出会いであった。