平成23年3月17日(土)
春の彼岸法要
春は近いはずなのに… 
 東日本大震災の「復興遅し」の声強き中、1年が過ぎた。前夜からの雨が続きいよいよ春到来と思いきや、寒気を伴っての本降りに人々の気持ちも湿りがち。しかし、彼岸の入りの墓参は生きる者の勤め、欠かせない。
 早朝からこうもり傘が参道をゆっくりと登ってくる。中に、赤や黄色の小さな傘も混じる。色傘?は右に左にゆらゆら揺れて黒傘の間を着かず離れず近づいてくる。止まったりすることも何度もある。そのたびにくるりと傘が廻り黒も止まる。その後、色傘が動き出す…。声は聞こえないが、催促の「檄」が飛んだに違いない。
本堂から見る彼岸法要の朝は変らない。雨ゆえに例年より静寂さが増し、ご先祖と静かに語りあえるだろう。

寒気忘れる本堂、緊張みなぎる静寂…

 ストーブがそこかしこに配置され、緋色に近いガスの燃え色が目に、暖かさを届けてくれる。囲むように席が占められていくが椅子を好む人がめっきり増えてきた。ご詠歌が流れ始めてから10分ほど経つであろうか、鐘が撞かれ法要開始が告げられる。お墓や位牌堂の焼香を終えた檀家さんも座り、遠くで鉦が鳴らされた。
 徐々に大きくなった鉦の音と共に方丈が入堂される。送迎・侍者(線香を持つ僧)・侍香(香台を持つ僧)を従え、緋の衣の裾が舞う。鮮やかな緋色を地に払子(ほっす)の白がひときわ目立つ。
 「献湯菓茶」を終え、読み上げられた経題に従い般若心経を唱え、回向文を読誦、再び一同三拝にておつとめが終わる。
「彼岸法要に移ります」のご案内があり再び一同三拝。修証義を唱え、ご先祖の安らかならんこと、そして震災で犠牲になられた方々への鎮魂を念じた。堂内いっぱいにお経が流れる中、回し香炉が全員に廻され各人がそれぞれにご先祖様へ感謝、家内の無事を祈念した。

「石」で伝える感情

 おなじみの里みちこさんの「詩語り」が開催される。早いもので、6回目と成る。
会場は本堂東の間。衣桁(いこう)が拡げられ長い和紙が2段に掲げられている。6メートルはあろうか、3架つなげた衣桁に余る長さ。和紙には「詩」が流れている。
 里さんの声が本堂に響く。凛とした良く通る声である。今日の演題は東日本大震災に心を痛めて綴った『天からの石文』。
 「文字のない大昔は石の形で感情を伝えたそうです。かのアインシュタインはアイン=ひとつ、シュタイン=石、とドイツ語で言います…」と石についての優しい話から入り、宇宙、自然については解からないことばかり、と続く。「しかし、人間のおろかしさは解かっています…」と阪神大震災でのボランティア活動の経験から感じた事を語る。
そして、大学生時代に「不立文字」の話に出会ったものの、豊かさ、と裕さの違い。
「希望」の文字は布の上に星が光っている、月の下に王様が座っている。父から生まれた希望だから、布は母さんのように暖かい…と謳いあげていく…。
 詩文を解説しながら諭し考えさせていく里さん。聴く人の心を暖め、すっきりさせる言葉がリズムを奏でながら飛び込んでくる。
 「しがた(しがたの)りびと」として全国各地にて講演・展覧会を開催、命の大切さを訴え、元気を植えつけている里さん。その活動は今も続く大阪城公園での朝の詩がたりがルーツであるが、今年も聴く人に多くの感動を与え、元気の種が蒔かれたようだ。結びに代えて、詩を紹介しよう。

  きず(きず代)から          里みちこ
 傷つくことから 気づく
 気づくことから 築いてゆける
 築く過程で 絆ができる
 創の裂けめから 新しい我が生まれて
 命が だんだん 立っていく