平成29年10月22日(日)
第32回 仏教に親しむ会
『仏画で読み解く仏さま』
講師 仏画師 安井 妙洋 氏
 時間通り浜松駅頭に現れた安井さんは、パンツ姿も颯爽と軽やかに階段を降り、笑顔で名乗られた。その言動に、描いていた「仏画師」のイメージは静から動へと変わり、歯切れのよい活発な仏画師…が刻み込まれた。

選挙と台風で鈍る出足
 衆院選挙の投票日と重なった当日。沖縄は暴風下のさなか、明日は県内に上陸かと台風予報が流れる中、朝からキャンセルの知らせが入り出席者の出足は鈍い。しかし、熱心な方々は40分前に到着。受付開始を今や遅し、と待ちかねている。
 講師の登場で会場の雰囲気は一新、気さくに前方の空いた席を詰めるよう呼びかけ、「愉しくやりましょう!」と口を添える。舞台下手に掲げられた釈迦涅槃図にも目をやり「これは珍しい構図。恐らく7年ぐらいは掛かったでしょう」と制作の大変さを述べられる。
 
 お話は、仏画の成り立ちから描き方までに及ぶ。幅広いお弟子さんを指導する立場から
「集中力が大事、周りの空気がとまる『空』の中に書く」
「基本を身につけた後は気力がモノを言う」「若者より年配者の方が『今しかない』の気迫があり、良い作品を生む」…などと実例を語り、「お好きな仏さんは?」と会場にも問いかけ、特に十一面観音は人気がありますよ、とほほ笑まれる。私も好き、と会場からの声。
 「ところが…」と言葉を区切り、やさしい観音さんも線の描き方は難しく苦労…と言いつつ「微笑み掛けながら描きなさい」と教わりますが…と黒板に指や目の線を描き、示された。

涅槃経に基づいて描かれる涅槃図
 東北大震災時に流された涅槃図の話に移ると会場はいっそうの緊張に包まれた。今でも慰問活動は続けていると言われ、講師の被災地を思う気持ちの深さが伝わってきた。
 掲げた涅槃図を見やりながらお釈迦さまの生涯を踏まえ、最古の2世紀から今日に至る登場人物の変化や構成の変遷をインド、日本と比較しつつ、分かり易く解説された。
 
 お話で一貫しているのは仏教の教え…生老病死の事実であり、「自らの死は誰しも分からず自身の越えたところにある」との前提。
動けることの喜び、聞えることへの感謝をしつつ、良寛の言葉を借り「無理無駄は止せ、マメに手足のツメを切れ、喜怒哀楽を声に出せ」と日常生活の範を紹介、決して考えすぎず、やりすぎを控えて「中道の精神」を貫き通すのが良いですね、と強調された。
 そして、今日からでも出来る事として「愛語」、「和顔」を挙げ、人に役立つこと、喜ばすことの大切さを説かれた。
 結びに、ご自身で歩かれたインド・チベットでの体験を始め仏画制作のご苦労を踏まえ「枯れて死んでいくのでなく、熟れて死んでいく」ことを聞く人にも勧め、自らも強く願っていると結ばれた。 
 仏さまに親しみ、歩み寄る活動的な仏画師、がお別れ時の印象だった。恐らく当地では初めてであろう「仏画のお話」は実に得がたく有意義であった。