平成31年2月11日(月)
冷えるが、風無く、にぎわう 「稲荷楽市」
 「寒いのも辛いが、雨がいちばん困る」…屋外でのお商売をなさる方の本音であろう。
例年のことゆえ寒さは覚悟しているが降雨は人の出足を止めるし、商品の管理や応対にも不便を来たす。されど、時間を掛けて準備したゆえ、店を開いてお客様と接したい…。

 新規参加4店が加わり、今年も賑やかに開かれた。小高い山頂にある立地ゆえ、厳しい北風、西風に見舞われるのが初午稲荷楽市である。「風なくば楽市開かぬ…天林寺」半ばあきらめ口で囁かれるが、その風がない静かな朝…ありがたい朝が楽市の幕開きとなった。
 9時30分。時間通りに方丈がマイクを握る。
「穏やかな日であり、お商売もやり易いでしょう。ましてや当山のお稲荷さん…萱垣稲荷さまは何でもお願い事を効いてくれますから、何なりとお願いなさってください…(微笑)」と肩のこらないご挨拶。終って、待ってました!と動く人の波…。さぁ「開店、開店!」

受付忙がし、待つひと多し

 天真閣があわただしい様子。『お茶席』をおとづれる人が集中したらしい。若きはかま姿も円熟の和服姿の茶人も応対にてんてこ舞い。額に汗を浮かべている。広い待合もあちこちに人の輪がうまれている。例年になく、午前からお客が寄って下さっているようだ。
 
 風のない玄関先では『甘酒接待』が始まった。待つ人も笑顔で世間話か?息を吹きかける人はおろか、指先をこする人もいない。幟一本、テーブルひとつ…と待っている。やがて、一人ひとりの碗の補充が忙しく、専任?が洗い拭かれた茶碗を金笊に盛り台所とを行き来する。甘さ程よく、熱さ優しい出来は今年も上々、「お代わり!」の声も上がってきた。笑いを堪えて見交わす顔から微笑が生まれ、「くすっ」と漏れたりする。テレているのかご本人「だって、美味いんだっ」と一人ごと。

一方、本堂では…

 太陽の恵み?に預かれない本堂内ではストーブで暖を取る。『福引』の景品の山を築き、大賞に鳴らす鐘の位置も定め、用意万端、慣れたものである。のんびりと応対しながらも互いを思いやる会話が生まれ、「ああぁ、あの息子さん?お孫さん幾つ?」なんて会話も生まれている。
 一声かけると初対面でも会話が弾む、コミュニティサロンそのもの…つくづく、お寺での会話って、なんでのんびりして、暖かいんだろう、と思う瞬間。

おと出し、音だし、リズムが踊る

 10時少し前、ハーモニカ独奏・岩崎武夫さんの音だしが始まる。例年、冷え込みに「唇は乾くし動かなくて…」と苦労されているが、今年はかなりノリの良いスタート?のようだ。いよいよ境内は華やぐ。
 楽市をリードするボランティアの皆さんの活躍はもはや稲荷楽市の名物。油の乗り切った大道芸の田中道夫さん、新ネタが楽しみ。バルーンアートは今年から名倉 功さんが担当される。メンバーそれぞれ若さ一杯、ユーモア満載のバンド『春がいっぱい』…それぞれ午前午後、2回のステージが待っている。

稲荷堂に注目!にぎわう本堂前

 二つ三つと鉦の音がざわついた境内を走る。午後3時、鉦を打つ送迎を先頭に正装の方丈が出座、お付きの僧侶らも縦に続き稲荷堂に渡る。人混みが割れ稲荷堂まで道筋が出来ていく。周辺の人々は注目、行く手の稲荷堂を見やる。優しい笑顔の挨拶時と異なり立帽子を着用、毅然と歩を進める方丈は凜とした面持ちを崩さず稲荷堂に入られた。本日の大詰め、萱垣稲荷荼枳尼真天さまへのご祈祷が始まる。
 一方、本堂前には人々が集まり始め、それぞれの位置を固めているかのよう。
 祈祷は続く。例年になくお堂を取り巻く人数が多く、何度も覗き込む子供、大人もいる。
 やはり、楽市は暖かい日がいい。人の動きが活発になるから…。春は近い。